36協定(さぶろくきょうてい)とは、会社が労働者に残業や休日出勤を命じる際に必要な法的な取り決めです。しかし、現場では「うちの会社は36協定を結んでいないけど大丈夫?」「協定が切れていたことに気づかなかった」といった声が多く聞かれます。36協定がない状態で時間外労働を行わせている場合、企業は法的なリスクを負うことになります。本記事では、36協定がない会社が抱えるリスクや罰則、正しい締結手順、未締結だった場合の対応策まで、労務担当者向けにわかりやすく解説します。正しい知識を身につけ、トラブルを未然に防ぐための参考にしてください。
2026年1月9日
目次
1.36協定がない会社でも違法とは限らないが注意が必要です
1.1 36協定とは何か?労働基準法における位置づけ
1.2 残業や休日労働がない場合は36協定は不要
1.3 労働組合がない会社でも36協定は結ぶ必要がある?
2.36協定がないまま残業をさせると法的リスクが発生します
2.1 労働基準監督署による是正勧告とは
2.2 悪質な場合は刑事罰もあり得る
3.36協定を締結するための正しいステップを解説
3.1 従業員代表の選出と協議の進め方
3.2 協定書の作成と労基署への提出手続き
3.3 労働組合がない会社での具体的な締結例
3.4 従業員への周知方法と注意点
4.36協定を結んでも守るべき法的ルールとは
4.1 残業時間に上限があることを忘れずに
4.2 36協定は毎年更新が必要です
4.3 事業所ごとに個別に締結する必要がある
4.4 安全配慮義務や過労防止策も重要
5.36協定が未締結・期限切れだった場合の対応策
5.1 至急の締結と届け出が最優先
5.2 労働時間の管理体制を見直す
5.3 社内教育とルールの再整備
5.4 業務効率化と長時間労働の削減
6.36協定に関する法改正や裁判例にも注目しておくべきです
6.1 法改正により36協定の運用が厳格化
6.2 過去の裁判例から見る企業の責任
1.36協定がない会社でも違法とは限らないが注意が必要です
1.1 36協定とは何か?労働基準法における位置づけ
36協定(さぶろくきょうてい)とは、労働基準法第36条に基づいて、労働者に法定労働時間を超える残業や休日出勤をさせるために、会社と労働者の代表が締結する協定です。この協定がないと、原則として企業は時間外労働を命じることができません。つまり、36協定は「残業や休日労働を合法的に行うための許可証」とも言える存在です。ただし、すべての企業が必ず結ばなければいけないというわけではなく、一定の条件を満たす場合には不要なケースもあります。
1.2 残業や休日労働がない場合は36協定は不要
企業が法定労働時間内(1日8時間・週40時間)で業務を完結しており、かつ休日に労働を命じることがない場合、36協定を締結していなくても違法にはなりません。このような職場では、労働基準法を超える労働が発生しないため、36協定の提出義務も発生しません。たとえば、定時退社が徹底されている職場や、労働時間が契約で厳格に管理されている場合がこれにあたります。
1.3 労働組合がない会社でも36協定は結ぶ必要がある?
労働組合が存在しない企業でも、36協定を締結しなければならない場面は多くあります。特に、日常的に残業や休日労働が発生している職場では必須です。この場合、労働者の過半数を代表する「従業員代表」と協定を結ぶことになります。代表者の選出は適正な手続きで行い、その人物が会社側ではなく労働者側の意見を代弁できる立場であることが求められます。形式的に選んだだけでは協定として無効になる可能性もあるため注意が必要です。
このように、36協定がなくても違法とは限らない場面はあるものの、実際に残業が発生している会社であれば、協定を結ばないままでいることは非常にリスクが高いと言えます。不要なトラブルを防ぐためにも、労働時間の実態を正確に把握し、必要に応じて早急に対応することが求められます。
2.36協定がないまま残業をさせると法的リスクが発生します
2.1 労働基準監督署による是正勧告とは
36協定を締結せずに労働者に残業や休日出勤をさせると、労働基準法違反となります。これが発覚すると、まずは労働基準監督署から是正勧告が出されます。是正勧告とは、法律違反を正すように求める行政指導で、罰則を伴わない指導段階です。しかし、軽く見てはいけません。是正勧告書が交付されると、その内容は社内外に影響を与えることがあり、特に従業員からの信頼や、企業の社会的信用にダメージを与える可能性があります。また、是正報告書の提出が求められ、対応状況によっては追加調査や再度の勧告もあり得ます。
是正勧告を受けた際には、36協定の未締結だけでなく、労働時間の管理や労働者への周知状況など、労務全体の問題を見直す必要があります。勧告を放置した場合や、指導に従わなかった場合は、次の段階として法的処分に発展するリスクもあります。
2.2 悪質な場合は刑事罰もあり得る
是正勧告を無視し続けたり、違法な長時間労働を常態化させていたりする企業には、刑事罰が科される可能性があります。具体的には、労働基準法第32条違反(法定労働時間を超える労働)や第36条違反(協定未締結での残業)として、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。さらに、実際に過労死や健康被害が発生していた場合には、安全配慮義務違反として損害賠償責任や企業名の公表、社会的制裁にまで発展するケースも少なくありません。
刑事罰にまで至るケースは比較的まれですが、日常的に残業が発生している企業が36協定を結んでいない状態は、法的には明確な違反行為です。企業としての信頼を守るためにも、形式的な対応にとどまらず、労働環境全体の見直しが求められます。
このように、36協定が未締結のまま時間外労働を行わせることは、企業にとって非常に大きなリスクを抱えることになります。特に悪質と判断された場合は、刑事罰や企業名の公表という深刻な結果につながりかねません。だからこそ、早期の締結と適切な運用が重要です。
3.36協定を締結するための正しいステップを解説
3.1 従業員代表の選出と協議の進め方
36協定を締結するには、まず会社側と労働者側の代表者が協議を行う必要があります。労働者側の代表者は「過半数代表者」と呼ばれ、従業員の過半数の支持を受けた人物であることが条件です。ここで重要なのは、経営側の意向に左右されず、労働者の立場を代弁できる人物でなければならないという点です。形式的に選んだだけの代表者では無効とされることもあります。
代表者の選出は、信頼性のある方法で行うことが必要です。たとえば、無記名投票や立候補制など、透明性のある手続きが望まれます。選出後は、会社側が労働時間の実態や今後の方針などを説明し、協定内容について協議を行います。この時点で、労働時間の上限や特別条項の有無など、具体的な内容を明確にしておくことが大切です。
3.2 協定書の作成と労基署への提出手続き
協議が整ったら、36協定書を作成します。この書面には、残業や休日労働をさせる業務の範囲、時間外労働の上限、適用期間などを明記します。特別条項(繁忙期などに限って上限時間を延長できる条項)を設ける場合は、その要件や延長時間も記載する必要があります。
協定書の作成が完了したら、会社の代表者と従業員代表が署名・押印を行います。その後、所轄の労働基準監督署へ「36協定届」として提出します。提出は紙媒体でも電子申請でも可能ですが、提出日が実施日以前である必要があります。つまり、締結した日より前に遡って残業を合法化することはできないため、タイミングには十分注意が必要です。
3.3 労働組合がない会社での具体的な締結例
労働組合がない企業では、先述の通り従業員の過半数代表者と協定を結ぶ必要があります。この場合、代表者は部門の長や役職者ではなく、現場の従業員から信任を得られる人物であることが望ましいです。代表者の選出方法や協議の記録は、後々のトラブル防止のためにも文書で残しておくと安心です。
中小企業では代表者の選出が形式的になりがちですが、労基署はその過程もチェックするため、適正な手続きを省略しないようにしましょう。正しく締結されていない36協定は無効となり、法的保護が得られないリスクがあります。
3.4 従業員への周知方法と注意点
36協定を結んだら、内容を従業員にしっかりと周知することも義務の一つです。掲示板への掲示、社内イントラへの掲載、説明会の実施など、方法は問いませんが、「誰でも確認できる状態」にしておくことが必要です。また、36協定の存在を知らずに長時間労働をしてしまうと、従業員とのトラブルに発展する可能性もあるため、内容だけでなく目的や重要性も合わせて説明することが望まれます。
適切な締結と周知は、企業としてのコンプライアンスを守るために不可欠なプロセスです。これを怠ると、労務リスクの温床となる可能性があるため、確実に行いましょう。
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4.36協定を結んでも守るべき法的ルールとは
4.1 残業時間に上限があることを忘れずに
36協定を締結すれば無制限に残業を命じられると誤解している企業もありますが、それは大きな間違いです。法律では時間外労働の上限が明確に定められており、原則として月45時間・年360時間までとされています。これを超える残業をさせるには、特別条項付きの36協定が必要になりますが、それでも上限は「年720時間以内」「単月100時間未満(休日労働含む)」「2〜6ヶ月平均80時間以内」など、厳しい制限があります。
これらの上限を超えると、労働基準法違反として罰則の対象になります。どれほど忙しい状況であっても、法律を超える働き方は許されないため、計画的な人員配置と業務分担が不可欠です。違反が続くと是正勧告だけでなく、労働者からの告発や企業イメージの低下といった重大な影響を受けるおそれがあります。
4.2 36協定は毎年更新が必要です
36協定は一度締結すれば永久に有効というものではなく、通常1年ごとの更新が必要です。更新しないまま放置してしまうと、協定の効力が失われ、時間外労働がすべて違法になる可能性があります。特に多忙な中小企業では更新作業が後回しにされがちですが、これは大きなリスクです。
更新時には、前年度の労働時間の実績を見直し、必要があれば協定内容の見直しを行うことが望まれます。特別条項の利用実績が多かった場合は、その原因を精査し、根本的な業務改善を検討する機会とすることも重要です。
4.3 事業所ごとに個別に締結する必要がある
36協定は企業単位ではなく、事業所単位で締結する必要があります。つまり、本社・支店・営業所など、それぞれの事業所ごとに、過半数代表者と協議を行い、協定書を作成・提出しなければなりません。よくある誤解として、本社で一括して締結した協定を全社に適用できるというものがありますが、これは法律上認められていません。
事業所ごとの実情に応じて、労働時間や業務の内容が異なる場合もあるため、それぞれで適切な内容の協定を結ぶ必要があります。これを怠ると、労基署の調査時に「未締結」とみなされ、指導や処分の対象となることがあります。
4.4 安全配慮義務や過労防止策も重要
36協定を結んで法的に残業が可能になったとしても、企業には労働者の安全と健康を守る「安全配慮義務」があります。過度な残業は心身の健康を損ね、最悪の場合は過労死やうつ病などの深刻な問題につながります。実際に問題が発生した場合、企業側が損害賠償責任を問われるケースもあります。
そのため、労働時間の上限を守るだけでなく、労働者の負担を軽減する体制の整備が必要です。定期的な健康診断、業務負荷の見直し、メンタルヘルス対策の実施など、具体的な取り組みを行うことで、長時間労働を防ぎ、働きやすい職場環境を実現できます。
5.36協定が未締結・期限切れだった場合の対応策
5.1 至急の締結と届け出が最優先
36協定が未締結のまま時間外労働が行われていた、または協定が期限切れだったことに気づいた場合、最も優先すべきは早急な対応です。まずは従業員代表を選出し、協議のうえ36協定を締結しましょう。そして、速やかに所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。届け出前に行った残業は法的に無効とされる可能性が高いため、違反のリスクを最小限に抑えるためにも、発覚次第すぐに対応することが重要です。
ただし、後から遡って協定の効力を適用することはできないため、違反が発覚した期間については正直に報告し、必要であれば是正措置を講じることが求められます。特に、労働基準監督署の調査が入る前に自主的に対応すれば、行政からの評価も違ってくることがあります。
5.2 労働時間の管理体制を見直す
36協定が未締結であったという事実は、企業の労務管理体制に何らかの不備がある可能性を示しています。このタイミングで、労働時間の記録方法や管理手法を根本から見直すことが重要です。タイムカードの打刻漏れや、上司の指示によるサービス残業など、形だけの管理になっていないかを精査しましょう。
最近では、勤怠管理システムの導入により、時間外労働の集計や上限管理が容易になっています。手作業によるミスを減らし、正確な記録を残すことが、36協定の運用とコンプライアンス強化につながります。
5.3 社内教育とルールの再整備
36協定の意義や労働時間に関する法律の知識は、現場の管理者や従業員にまで浸透していないことが多く、これが違反の温床となることがあります。そのため、36協定を再締結する際には、社内でのルールや手続きの見直しとともに、社員教育の実施もセットで行うと効果的です。
たとえば、管理職向けに労働時間管理の研修を実施する、従業員向けに36協定の目的や内容を周知する資料を配布するなど、段階的な教育を通じて意識の向上を図ることが大切です。従業員が制度を正しく理解することで、日常の労働時間に対する意識も自然と高まります。
5.4 業務効率化と長時間労働の削減
36協定が形骸化しないためにも、日常的な業務の効率化が求められます。残業が常態化している職場では、業務の見直しや無駄の排除が必要不可欠です。定型業務の自動化や、フローの簡素化、部署間での業務分担の見直しなどを通じて、残業そのものを削減できる体制を整えることが、労務リスクの根本的な解消につながります。
長時間労働の削減は、従業員の健康維持や離職率の低下にも直結します。36協定は単なる届出書類ではなく、「働き方改革」の一環と位置づけることで、企業全体の体制強化へとつながるはずです。
6.36協定に関する法改正や裁判例にも注目しておくべきです
6.1 法改正により36協定の運用が厳格化
近年、働き方改革関連法の施行により、36協定に関する制度が大きく見直されました。特に2019年の法改正では、時間外労働の上限が法律で明文化され、企業はその上限を遵守することが義務となりました。これにより、従来は努力義務とされていた月45時間・年360時間の上限が法的拘束力を持ち、違反すれば罰則が科される仕組みに変わりました。
さらに、特別条項付き協定を結ぶ場合でも、年720時間・単月100時間未満(休日労働を含む)などの厳しい条件が追加されています。これにより、現場任せの運用や形式的な締結では対応しきれない状況になってきています。労働基準監督署のチェックも厳格になっており、形式的に協定を提出するだけでなく、実際の運用まで整備されているかが問われています。
6.2 過去の裁判例から見る企業の責任
36協定に関しては、過去にも多くの裁判例があり、その中には企業の対応が不十分だったことで重い責任を問われたケースも存在します。代表的なものに、長時間労働が原因で従業員が自殺し、企業に損害賠償責任が認められた事件があります。このような判例では、36協定の存在だけでなく、その内容や運用状況、安全配慮義務の履行状況が厳しく精査されます。
また、36協定の締結手続きに瑕疵があったり、従業員代表の選出が適切でなかったりした場合、協定そのものが無効と判断されることもあります。企業としては、「書面があるから大丈夫」という安易な認識を改め、内容の妥当性や実態との整合性を重視すべきです。
裁判例は、実務のグレーゾーンを明確にし、企業がどこまで配慮・管理を行うべきかを知るための重要な判断材料です。法改正とあわせて最新の裁判例にも目を通し、同じ過ちを繰り返さないための対策を講じることが重要です。
このように、法改正と判例は、36協定の運用において無視できない要素です。常に最新情報をキャッチアップし、制度の趣旨を理解した上で、確実な対応を行うことが企業のリスク回避につながります。
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