【法改正】法改正特集

2025年度も早3か月を経過しようとしております。3月末の退職及び4月の新卒採用への対応と慌ただしい日々を過ごしつつ、現在は、年次業務である住民税の更新、労働保険年度更新、そして社会保険定時決定(算定基礎届)と各種対応に追われている方も多いのではないかと思います。人事関連の業務に目を向けますと、これからの1か月が業務ボリュームの多い時期となりますので、体調には十分にご注意頂きたいと思います。
さて、そのような時期ではあるものの、ここ1~2か月にかけて多くの改正法が公布されております。そこで今回は、①労働安全衛生法、②労働施策総合推進法、③公益通報者保護法、④年金制度改革法、の4つの改正法の概要をお伝えさせて頂きます。 

1.労働安全衛生法

2025(令和7)年5月14日、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が公布されました。 概要は以下の通りとなり、施行は原則2026(令和8)年4月1日となりますが、一部の項目については施行日が異なりますので注意が必要です。

1.個人事業者等に対する安全衛生対策の推進【労働安全衛生法】
既存の労働災害防止対策に個人事業者等も取り込み、労働者のみならず個人事業者等による災害の防止を図るため、
① 注文者等が講ずべき措置を定め、併せてILO第155号条約(職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約)の
履行に必要な整備を行う。
② 個人事業者等自身が講ずべき措置(安全衛生教育の受講等)や業務上災害の報告制度等を定める。

2.職場のメンタルヘルス対策の推進【労働安全衛生法】
ストレスチェックについて、現在当分の間努力義務となっている労働者数50人未満の事業場についても実施を義務とする。
その際、50人未満の事業場の負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保する。

3.化学物質による健康障害防止対策等の推進【労働安全衛生法、作業環境測定法】
① 化学物質の譲渡等実施者による危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則を設ける。
② 化学物質の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知を認める。
なお、代替を認める対象は成分名に限ることとし、人体に及ぼす作用や応急の措置等は対象としない。
③ 個人ばく露測定について、作業環境測定の一つとして位置付け、作業環境測定士等による適切な実施の担保を図る。

4.機械等による労働災害の防止の促進等【労働安全衛生法】
① ボイラー、クレーン等に係る製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる
範囲を拡大する。
② 登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件を強化し、検査基準への遵守義務を課す。

5.高齢者の労働災害防止の推進【労働安全衛生法】
高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施を事業者の努力義務とし、国が当該措置に関する指針を公表することとす

2.労働施策総合推進法

2025(令和7)年6月11日、 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する 法律」が公布されました。今回は、いわゆるカスタマーハラスメント、求職者等へのセクシュアルハラスメント等のハラスメントのない職場づくりや、女性の職業生活における活躍に関する取組の推進等を図るために改正が行われております。 改正の概要は、以下の通りとなっておりますが、実際の施行日につきましては、項目によって異なっており、原則として、公布の日から起算して1年6月以内で政令で定める日となっておりますが、1③及び2②から④までは公布日、2①及び⑥並びに3は2026(令和8)年4月1日となっております。

1.ハラスメント対策の強化【労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法】
① カスタマーハラスメント(※)を防止するため、事業主に雇用管理上必要な措置を義務付け、国が指針を示すとともに、
カスタマーハラスメントに 起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務を明確化する。
※職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の
言動であって、その雇用する 労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を
超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること
② 求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防止するため、事業主に雇用管理上必要な措置を義務付け、
国が指針を示すとともに、求職者等に 対するセクシュアルハラスメントに起因する問題に関する国、
事業主及び労働者の責務を明確化する。
③ 職場におけるハラスメントを行ってはならないことについて国民の規範意識を醸成するために、啓発活動を行う国の責務を
定める。

2.女性活躍の推進【女性活躍推進法】
① 男女間賃金差異及び女性管理職比率の情報公表を、常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主及び特定事業主に
義務付ける。
② 女性活躍推進法の有効期限(令和8年3月31日まで)を令和18年3月31日まで、10年間延長する。
③ 女性の職業生活における活躍の推進に当たっては、女性の健康上の特性に配慮して行われるべき旨を、基本原則において
明確化する。
④ 政府が策定する女性活躍の推進に関する基本方針の記載事項の一つに、ハラスメント対策を位置付ける。
⑤ 女性活躍の推進に関する取組が特に優良な事業主に対する特例認定制度(プラチナえるぼし)の認定要件に、
求職者等に対するセクシュアル ハラスメント防止に係る措置の内容を公表していることを追加する。
⑥ 特定事業主行動計画に係る手続の効率化を図る。

3.治療と仕事の両立支援の推進【労働施策総合推進法】
事業主に対し、職場における治療と就業の両立を促進するため必要な措置を講じる努力義務を課すとともに、
当該措置の適切・有効な実施を 図るための指針の根拠規定を整備する。

3.公益通報者保護法

2025(令和7)年6月11日、 「公益通報者保護法の一部を改正する法律」が公布されました。公益通報者保護法という法律を余り耳にされたことが 無い方も多いかと思いますが、人事・労務にも関わる重要な法律の1つとなりますので、是非、概要だけでも押さえて頂ければと思います。
改正の概要は以下の通りとなり、この法律の施行は、公布の日から1年6月以内で政令で定める日とされております。

1.事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
① 従事者指定義務に違反する事業者(常時使用する労働者の数が300人超に限る)に対し、現行法の指導・助言、勧告権限に
加え、勧告に 従わない場合の命令権及び命令違反時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設する。
② 上記事業者に対する現行法の報告徴収権限に加え、立入検査権限を新設するとともに、報告懈怠・虚偽報告、
検査拒否に対する刑事罰 (30万円以下の罰金、両罰)を新設する。
③ 現行法の体制整備義務の例示として、労働者等に対する事業者の公益通報対応体制の周知義務を明示する。

2.公益通報者の範囲拡大
① 公益通報者の範囲に、事業者と業務委託関係にあるフリーランス(※1)及び業務委託関係が終了して1年以内の
フリーランスを追加し、公益通報を理由とする業務委託契約の解除その他不利益な取扱いを禁止する。
(※1)フリーランスの定義は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」第2条を引用して規定。

3.公益通報を阻害する要因への対処
① 事業者が、労働者等に対し、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること等によって
公益通報を妨げる行為をすることを 禁止し、これに違反してされた合意等の法律行為を無効とする。
② 事業者が、正当な理由がなく、公益通報者を特定することを目的とする行為をすることを禁止する。

4.公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化
① 通報後1年以内(※2)の解雇又は懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定する(民事訴訟上の立証責任転換)。
(※2)事業者が外部通報があったことを知って解雇又は懲戒をした場合は、事業者が知った日から1年以内。
② 公益通報を理由として解雇又は懲戒をした者に対し、直罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、両罰)を新設する。
法人に対する法定刑を3,000万円以下の罰金とする。
③ 公益通報を理由とする一般職の国家公務員等に対する不利益な取扱いを禁止し、これに違反して分限免職又は
懲戒処分をした者に対し、直罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)を新設する。

4.年金制度改正法

2025(令和7)年6月13日、年金制度改正法が成立しました。改正の概要は以下の通りとなり、施行は原則2026(令和8)年4月1日となりますが、一部の項目については施行日が異なりますので注意が必要です。

1.働き方に中立的で、ライフスタイルの多様化等を踏まえた制度を構築するとともに、
高齢期における生活の安定及び所得再分配機能の強化を図るための公的年金制度の見直し
① 被用者保険の適用拡大等
・短時間労働者の適用要件のうち、賃金要件を撤廃するとともに、企業規模要件を2027(令和9)年10月1日から
2035(令和17)年10月1日までの間に段階的に撤廃する。
・常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種を解消し、被用者保険の適用事業所とする。
※ 既存事業所は、経過措置として当分の間適用しない。
・適用拡大に伴い、保険料負担割合を変更することで労働者の保険料負担を軽減できることとし、労使折半を超えて事業主が
負担した保険料を制度的に支援する。
② 在職老齢年金制度の見直し
③ 遺族年金の見直し
④ 厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ ・標準報酬月額の上限について、その上限額を65万円から75万円に
段階的に引き上げる(※)とともに、最高等級の者が 被保険者全体に占める割合に基づき改定できるルールを導入する。
(※) 68万円→71万円→75万円に段階的に引き上げる。
⑤ 将来の基礎年金の給付水準の底上げ

2.私的年金制度の見直し
① 個人型確定拠出年金の加入可能年齢の上限を70歳未満に引き上げる。
② 企業年金の運用の見える化(情報開示)として厚生労働省が情報を集約し公表することとする。

3.その他
① 子のある年金受給者の保障を強化する観点から子に係る加算額の引上げ等を行いつつ、老齢厚生年金の配偶者加給年金の
額を見直す。
② 再入国の許可を受けて出国した外国人について、当該許可の有効期間内は脱退一時金を請求できないこととする。
③ 2020(令和2)年改正法附則による検討を引き続き行うに際して社会経済情勢の変化を見極めるため、報酬比例部分の
マクロ経済スライドによる給付調整を、配慮措置を講じた上で次期財政検証の翌年度まで継続する。