2024.05.13

【お知らせ①】労働保険年度更新について

本年度も、早くも1カ月が経過しました。5月以降、人事労務関連では、いつくかの年次業務がございます。そこで今回は、その中の1つである、労働保険年度更新について簡単にご説明させて頂きます。 

1.そもそも「労働保険」とは

労働保険とは、「労災保険」と「雇用保険」の総称を言います。労災保険は、労働者が業務上又は通勤途上において負傷した場合等に保険給付が行われ、一方、雇用保険は、主として労働者が失業した場合に保険給付が行われるものとなっております。
各保険の給付は、保険事故(労働災害や失業)が生じた際に個別に行われるものとなっておりますが、各保険の保険料の申告及び納付につきましては、原則として、年に1度行われるものとなっております。

2.労働保険年度更新とは

事業主は、新年度の概算保険料を納付するための申告・納付(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第15条)と前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第19条)の手続きを行う必要があり、これを「労働保険年度更新」と言います。
この労働保険年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間に行う必要がございます(2024年度は、6月3日(月)~7月10日(水)となります。)。もし、この手続きが遅れてしまいますと、政府が労働保険料及び一般拠出金の額を決定し、さらに追徴金(労働保険料・一般拠出金の 10%)を課す場合もあります。
労働保険の保険料は、毎月4月1日から翌年3月31日までの1年間(これを「保険年度」といいます。)を単位とし、その間で、全ての労働者(雇用保険については、被保険者)に支払われる賃金の総額に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて算出されます。
また、上記により算出された保険料が40万円以上(労災保険又は雇用保険のいずれか一方のみ成立している事業については、20万円以上)の場合、事業主は、労働保険料を分割納付することも可能となります。

3.労働保険料率について

2024(令和6)年度の保険料率につきましては、下記よりご確認ください。
(労災保険料率)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/rousai_hokenritsu_kaitei.html
(雇用保険料率)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000108634.html

4.労働保険料の納付回数及び納期限について

(1)納付回数

保険料につきましては、一定の要件を満たした場合に3分割での納付(延納)が可能となります。
・労災保険及び雇用保険のいずれも成立している場合 … 概算保険料総額が40万円以上の場合
・労災保険又は雇用保険のどちらか一方のみ成立している場合 … 概算保険料総額が20万円以上の場合
延納が可能か否かは、あくまで「概算保険料総額」を基準に判断されます。そのため、概算保険料総額のみでは基準の金額に満たないものの、 確定保険料の不足額又は一般拠出金を足した場合に基準の金額に達するという場合は、延納出来ませんので、注意が必要となります。

(2)納付期限

労働保険料及び一般拠出金の納期限につきましては、右記の表に記載の通りとなっております。

口座振替となっている事業主や労働保険事務組合に委託している事業主の皆様につきましては、通常の納期限と異なっておりますので、注意が必要となります。また、現在は口座振替ではないが、口座振替にしたい場合、申込締切日がありますので、ご確認ください。(※2024(令和6)年度の第1期分より、対象金融機関に「ゆうちょ銀行」が追加されております。)

5.出向者(在籍出向者)の取扱いについて

出向者(在籍出向者)については、出向元と出向先の2つの雇用関係を有することとなります。
労働保険年度更新時における出向者(在籍出向者)の取扱いについては、以下の通りとなります。

①労災保険 … 出向元で支払われている賃金も出向先で支払われている賃金に含めて計算し、出向先で対象労働者にカウント
します。

②雇用保険 … 雇用保険については、その者が生計を維持するのに必要な賃金を受けている方の雇用関係についてのみ、被保
険者となります。
通常は、出向元で雇用保険に加入しているかと思いますので、その場合は出向元の申告に出向者の賃金を含め
ることとなります。

上記のように、出向者(在籍出向者)については、労災保険と雇用保険で、出向元、出向先のどちらに賃金を含めるかが異なっておりますので、 出向者を受け入れている場合には出向元に賃金額を依頼し、自社から出向している者がいる場合には、自社での賃金額を集計し、出向先に賃金額を提供することを忘れずに実施してください。 

【お知らせ②】住民税年度更新について

5月中旬以降、各市区町村から住民税の決定通知書が各企業宛に送付されてきます。通常、住民税は、年額を12分割し、6月から翌年5月までの給与から毎月控除されるものとなっておりますが、本年度は、定額減税の関係で多くの方が7月から翌年5月までの11分割になることが想定されます。
そこで、住民税の決定方法やよくある質問について簡単に触れてみたいと思います。

1.住民税の決定方法

住民税額は、前年の収入に応じて、市区町村がその金額を決定するものとなります。
具体的には、2024(令和6)年6月(又は7月)の給与から控除される住民税は、2023(令和5)年1月から12月までの1年間の収入によって、決定されることとなります。
市区町村では、基本的には、毎年1月31日が提出期限の給与支払報告書の内容に基づき、住民税額を決定することとなりますが、労働者が自ら確定申告を実施した場合には、その内容が税務署から市区町村に連携され、確定申告の内容に基づいて、金額が決定されることとなります。
また、本年度は、既にご存じの方も多いかと思いますが、6月から源泉所得税及び住民税について、定額減税が実施されます。
住民税の定額減税対象者は、「個人住民税の納税義務がある者で、納税者本人の合計所得金額が1,805万円以下の者」とされており、その金額につきましては、次の①及び②の合計額となります。

①本人(居住者に限る。) :10,000円
②同一生計配偶者及び扶養親族(いずれも居住者に限る。):1人につき10,000円

そのため、本人 + 扶養親族2人の場合は、以下のようになります。

減税額Total:30,000円
計算方法 :10,000円(本人分)+20,000円(10,000円×扶養親族2名)=30,000円

2.住民税年度更新準備

前述の通り、住民税は6月の給与から新しい金額での控除がスタートします。そのため、各市区町村から住民税決定通知書が届きましたら、

①提出した労働者分が全て届いているか
②給与支払報告書を提出した市区町村と住民税額を決定した市区町村が一致しているか

等を確認し、給与から控除するための準備を実施する必要があります。
近年は、el-taxで給与支払報告書を提出している企業も増えてきたかと思いますが、その際に、データの他、紙での決定通知書を受領することとした場合、 データで受領した住民税額と、紙で受領した住民税額に違いが生じているケースが稀に発生しております。そのため、データと紙の両方で決定通知書を受領することとしている場合には、正本である紙の決定通知書との最終確認を忘れずに実施するようにしてください。

3.よくある質問

以下では、住民税及び今年度実施される定額減税について、よくあるご質問をご紹介させて頂きます。

(1)会社で住民税の決定通知書を受領したが、本人のところに市区町村から住民税の納付書が届いた

・本件の場合、従業員本人が確定申告を実施し、確定申告にかかる部分の住民税額の納付方法を普通徴収にした可能性があります。 まずは、従業員本人に確定申告を行ったか否か確認し、その上で、納付書の分も給与から控除する場合には、住民税異動届を作成し、 市区町村へ届出を行ってください。

(2)退職者について、退職時に住民税異動届を出したのに決定通知書に名前と金額が記載されている

・住民税は、原則として、1月1日に住民票のある市区町村で課税されます。本件の場合、2023年1月と2024年1月で住民票のある市区町村が異 なっており、そのため、退職時には2023年1月1日の市区町村に異動届を出したのみで、2024年1月1日の市区町村には異動届を出していない可能性があります。そのため、各年で課税されている市区町村を確認し、必要に応じ住民税異動届を提出してください。

(3)今回の定額減税は、一体どのようなもの

・今回の定額減税は、前年の合計所得金額が1,805万円以下(給与収入のみの場合、給与収入2,000万円以下に相当)である所得割の納税義務者に係る所得割額から控除するものであり、均等割や利子割、配当割、株式等譲渡所得割からは控除されません。
そのため、次の者は定額減税の対象とはなりません。

① 前年の合計所得金額が1,805万円を超える者
② 前年の総所得金額等が所得割の非課税限度額以下である者
③ 所得控除により課税総所得金額等がゼロとなる者
④ 税額控除により定額減税前に所得割額がゼロとなる者

(4)2024(令和6)年1月2日以後に出生・死亡した扶養親族に係る取扱は、どうなりますか。 

・2024(令和6)年度分の個人住民税に係る扶養親族の判定時期は、地方税法の規定に基づき、2023(令和5)年12月31日(2023(令和5) 年中に死亡した場合には、その死亡の時)の現況によるとされているため、2024(令和6)年1月2日以後に死亡した扶養親族については定額減税の対象となるが、同日以後に出生した扶養親族については定額減税の対象とはなりません。
なお、2024(令和6)年分の所得税に係る扶養親族の判定時期は、所得税法の規定に基づき、2024(令和6)年12月31日(2024(令和6)年中に死亡した場合には、その死亡の時)の現況によるとされているため、2024(令和6)年1月2日以後に出生・死亡した扶養親族については、定額減税の対象となります。

筆者:松本 好人Yoshito Matsumoto 株式会社EPCS沖縄取締役 社会保険労務士法人EOS代表社員 特定社会保険労務士 法学修士、日本労働法学会所属